潜水艦のおうりゅうにリチウムイオン電池が採用 鉛蓄電池から変わったメリット・デメリットは?
リチウムイオン電池は、高容量、高エネルギー密度、長寿命などのメリットがあるために、さまざまな製品に搭載されています。例えば、スマホ、電気自動車、家庭用蓄電池などが代表的です。IOT化が進むにつれて、さらに需要が高まることでしょう。
このようなリチウムイオンバッテリーですが、いまでは潜水艦用の蓄電池としても採用されはじめています。2018年の10月には三菱重工神戸造船所において、世界初のリチウムイオン電池搭載の潜水艦である「おうりゅう」が披露されました。
おうりゅう号の前の機種ともいえる「そうりゅう」とよばれる潜水艦までは、鉛蓄電池が採用されていましたが、今回モデルのおうりゅうからはリチウムイオン電池に切り替えられたのです。
潜水艦でのリチウムイオン電池の採用が、世界初ということもあり、中国、韓国などの海外からの反応も大きいようです。
このようなおうりゅうに代表される潜水艦用の電池ですが、鉛蓄電池がリチウムイオン電池に代替されることでどのようなメリットがえられるのでしょうか。
ここでは、「おうりゅうなどの潜水艦における電池の役割」「潜水艦に求められる鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーの性能の違い」について解説していきます。
・おうりゅう・そうりゅうなどの潜水艦における電池の役割と求められる特性
・おうりゅうなどの潜水艦用バッテリーとしての鉛電池とリチウムイオン電池の性能比較
・まとめ
というテーマで解説していきます。
おうりゅう・そうりゅうなどの潜水艦における電池の役割と求められる特性
潜水艦では、ディーゼルエンジン(内燃機関)による「通常の動作モード」と、バッテリーを使用する「周囲に気づかれてはいけないときに使用する非定常時のモード」でに、大まかに分かれて動いています。つまり、自動車におけるハイブリッド車のようなものといえます。
また、潜水艦の動作が停止する時に生まれるエネルギーを電気的なエネルギーに変換し、蓄電池であるリチウムイオン電池にためることで、エネルギーを有効利用しています。
このような、おうりゅうに代表される潜水艦用のリチウムイオン電池ですが、基本的には「高容量」「高電圧作動(高出力)」「高エネルギー密度」などが求められます。
これと同時に、サイクル特性やフロート特性(保存特性)など、寿命が長いことも求められます。寿命が短く、電池がたった数回使用した程度で劣化してしまったら、すぐに交換しなければいけなくなるためです。これでは、手間とコストがかかってしまいます。
さらに、潜水艦という密閉空間に電池と人が共存することになるため、より高い安全性も求められます。
これらが潜水艦に求められるバッテリーの役割と要求事項です。このような蓄電池ですが、鉛電池からリチウムイオン電池に変わったことで、どのような長所や課題などがあるのでしょうか。
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おうりゅうなどの潜水艦用バッテリーとしての鉛電池とリチウムイオン電池の比較
上述の通り、エネルギー密度、寿命、安全性といった観点から、鉛バッテリーとリチウムバッテリーの比較をしていきます。
エネルギー密度
エネルギー密度についてはこちらに詳しく記載していますが、エネルギー密度=容量×平均作動電圧/(質量もしくは体積)で表される量のことを指します。体積あたりのエネルギー密度が体積エネルギー密度(Wh/L)であり、質量あたりのエネルギー密度を質量エネルギー密度(Wh/kg)と呼びます。
体積エネルギー密度が大きいほど、少ないスペースで同じエネルギーを保有することができます。一方で、質量エネルギー密度が高ければ、少ない質慮(いわゆる重さ)で同じエネルギーを保つことができるのです。
つまり、潜水艦用の電池としては、体積エネルギー密度であっても、質量エネルギー密度であっても、大きいほどいいといえます。このようなエネルギー密度ですが、鉛蓄電池とリチウムイオン電池のそれを比較すると以下のようになります。
グラフにしてみると、その差は一目瞭然です。
※
これは、「リチウムイオン電池の単セルでの動作電圧が3.7V程度と鉛電池の2Vの動作電圧よりも高いこと」「単位質量や単位体積あたりの容量自体も大きいこと」が要因です。つまり、これらの積である、エネルギー密度も高まるのです。
このような理由から、リチウムイオン電池の方が鉛電池よりもエネルギー密度が非常に大きく、おうりゅうやそうりゅうなどの潜水艦用のバッテリーに向いているといえます。
寿命
同様に、リチウムイオン電池は鉛蓄電池よりも寿命が大幅に長いです。電池の種類や製品にもよりますが、サイクル寿命としてはおよそ鉛蓄電池では200~500回程度、リチウムイオン電池では2000回~10000回以上が目安です。
以下のようなイメージです
※
もちろん、充電と放電を繰り返すサイクル特性だけでなく、一定電圧で給った状態での劣化のしにくさを表すフロート特性などの各種劣化耐性もリチウムイオン電池の方が高いです。
先述の通り、どのような劣化モードであっても劣化が進むことは寿命が短いことに直結します。そして、短寿命であることはバッテリー交換を行う頻度が高くなり、大きな労力が必要となるのです。
このように、寿命の観点からもリチウムイオン電池の方が潜水艦用バッテリーとしてより適しているといえます。
安全性
このように長所が多いリチウムイオン電池ですが、一つ大きな課題として安全性が低いことがあげられます。
リチウムイオン電池の安全性についてはこちらで、電池発火のメカニズムはこちらで詳しく解説していますが、外部から衝撃が加わったり、システム故障によって電池が過充電になったりすると、電池が破裂・発火することがあります。これは鉛電池では起きにくい現象です。
外部からの衝撃によってリチウムイオン電池が爆発する仕組みを簡単に解説します。衝撃が加わると、正極と負極の短絡を防いでいる部材のセパレータなどの厚生部材が破損することがあります。セパレータが破損すると部分的に正極と負極の短絡(ショート)がおこります。短絡すると、発熱を生じ、短絡部周囲のセパレータが溶融し、収縮します。すると、さらなる短絡がおこり、さらに熱が発生します。
以下のようなイメージです。
このように、急激に発熱していくと電池内部に熱がたまり、電解液と負極の反応温度に達します。すると、さらには発熱を生じ、電解液自体の分解、電荷液と正極の反応温度、正極の分解温度に達し・・・という悪循環が起こるのです。
さらに、基本的にリチウムイオン電池の正極材にはマンガン酸リチウムなど、結晶構造が分解された際に酸素を放出するものが多いです(このときリン酸鉄リチウムでは熱安定性が高いために結晶構造の崩壊が起こりにくく、酸素を出しいくい)。この酸素が短絡が起こって火花が起きている部分に混ざったとすると、爆発してしまうのです。
このような一連の流れによってリチウムイオン電池が破裂、発火に至ることがあります。
一方で鉛蓄電池であれば、異常時に水素を発生させることはありますが、リチウムイオン電池ほどの危険な状態になりにくいです。
よって、安全性が低いことのみが、潜水艦において使用時の懸念事項といえます。
もちろん、電池単体では危険なときもあありますが、システムや周囲の筐体設計を頑丈にしていれば、十分な信頼性を得ることもできます。
まとめ
潜水艦おうりゅうで初めて搭載されたリチウムイオン電池ですが、採用の理由には高容量、高出圧作動、高エネルギー密度、長寿命などであることが挙げられます。
ただ、安全性のみが課題であり、電池以外の部分での設計を強固なものにするか、次世代電池である全固体電池の使用などにより、解決できる内容です。
日本から世界初のリチウムイオンバッテリー搭載あの潜水艦おうりゅうの開発が実現したことが非常に喜ばしいことです。これと同時に、より高性能で安全性が高い電池の普及を期待したいです。
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