リチウムイオン電池の安全性
リチウムイオン電池は他の二次電池と比較した際に、高電圧、高容量、高エネルギー密度、長寿命などのがあるため先にものべたようなさまざまな製品に使用されています。例えば、スマホ向けバッテリー、電気自動車搭載電池、家庭用蓄電池などが挙げられます。
IOT化が今後進むにつれ、リチウムイオン電池の重要性がより増していきます。
ただ、いまではスマホ用電池パックや飛行機搭載バッテリーなどリチウムイオン電池の発火事故が急増しており、危険性(安全性の低さ)が認識されるようになってきました。
そのため、リチウムイオン電池や電池を搭載する最終製品側の安全性設計が重要です。
ここでは、「リチウムイオン電池の安全性」に関する以下の内容を解説していきます。
・リチウムイオン電池の安全性 安全性が低い理由
・リチウムイオン電池や電池搭載最終製品が発火事故につながる原因
・リチウムイオン電池や電池搭載最終製品の安全性を高める方法
というテーマで解説していきます。
リチウムイオン電池の安全性 安全性が低い理由
各種性能が高いリチウムイオン電池ですが、鉛蓄電池やニッケル水素電池など他の二次電池と比べて、なぜ安全性が低いのでしょうか。
以下でリチウムイオン電池の「安全性が低い」原因について解説していきます。
①正極活物質に酸素を放出する材料を使用している
リチウムイオン電池が熱暴走(破裂・発火)につながるメカニズムの詳細についてはこちら で解説していますが、主に「電池内部での短絡」「電池外部での短絡」「過充電」などの発生により、電池が発熱し、熱暴走にいたる可能性がでてきます。
上述したトリガーが起こると、負極と電解液や正極と電解液の反応などのさまざまな発熱反応を引き起こします。
ただ、リチウムイオン電池であっても構成材料によって種類が多くあり、各種発熱反応がおこっても発火にいたるものとそうでないものに分かれます。発火に至らない方が「安全性が高い電池」です。
以下に安全性の低い電池の発火時のイメージを示します。
安全性に与える影響度が大きい電池の構成部材は正極活物質です。
「正極活物質が熱的・電気的な力により分解されやすく、分解時に酸素を放出するものである」と爆発が起きやすくなります。基本的にいま普及しているリチウムイオン電池の正極活物質はこの安全性が低い材料が使用されています。
例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム(コバルト酸リチウムよりは安定)、NMC系(三元型)などの正極材が代表的です。
一方で、オリビン系構造をもつリン酸鉄リチウムは、作動電圧が低いものの結晶構造の安定性が高く、安全性が高いです。
②低温での急速充電時にLi金属の電析がおこる
リチウムイオン電池(一般的な電池では負極材に黒鉛を使用)では、低温下において急速充電を行うとリチウム金属が負極表面に析出する「電析」とよばれる現象が起こるときがあります。
以下のようなイメージです。
電析がおこると活性が高いLi金属が電池内部に存在するため、発熱などの異常がおこると危険な状態となるリスクが高まります。結果として、リチウムイオン電池の安全性を低下させます。
ただ、電析がおこると、安全性を議論する前に、急激な容量低下や内部抵抗の上昇が起こると電池として機能しなくなります。そのため、電池設計の評価の段階で、電析が起こらないように最適化されていることがほとんどです。
そのため、出荷品での負極由来の電析による事故よりも、先にも述べたような正極の設計由来の発火事故の方が起きやすいです。つまり、正極の方が安全性への寄与率が高いといえます。
③電解液に危険物を使用している
リチウムイオン電池の電解液として、有機溶媒系の材料をしようしていることから、発熱時に電解液が燃えやすいです。
基本的に、電解液はエチレンカーボネート(EC)などの環状のカーボネートと、ジエチルカーボネート(DEC)やエチルメチルカーボネート(EMC)などの鎖状カーボネートを混ぜたものを使用します。これは、リチウムイオン電池が高電圧で作動すること耐えられる設計となっていることが理由です。
鉛蓄電池などに使用される水溶性の電解液をリチウムイオン電池に使用すると、すぐに分解され、電池として機能しなくなります。
これら混合物は有機溶媒であり、消防法における危険物であるため引火性が高いのです。
リチウムイオン電池や電池搭載最終製品が発火事故につながる原因
このようにリチウムイオン電池単体では、異常状態となると破裂発火につながるリスクがあることを解説しました。また、発火に至らないまでも電池が膨れたり、高温になる事故も多く発生しています。
それでは、具体的にリチウムイオン電池やバッテリーを搭載する最終製品としてどのような使用状況において、異常状態となりやすいのでしょうか?
リチウムイオン電池やバッテリー搭載製品のトラブル発生の仕組みを以下で確認していきます。
リチウムイオン電池の不良品が出荷されること
リチウムイオン電池の製造時に不良品が含まれており、これを各種検査工程ではじけないときに、、トラブルが発生する場合があります。
発火事故を引き起こす代表的な不良品の項目としては、電池の電極作成時やエレメント作製時に異物が混入することがあります。
すると電池を使用している内に電池構成部材のセパレータを貫通、正極と負極が触れ、内部短絡を起こす場合があります。結果として、電池の発火事故へつながる場合があります。
もともとの電池設計が悪いケース
他にもリチウムイオン電池単体の問題点としては、電池設計のミスが挙げられます。ミスというと語弊がありますが、例えばエネルギー密度を上げるために電池設計として無理をする場合があるのです。
具体的には、ラミネート電池などをはじめとして電極を積層式によって作製し、エレメントを作ったとします。この際、電析を防ぐために負極を正極よりも大きくすることが基本ですが、ぎりぎりまで正極を大きくし過ぎる設計のときがあります。
以下のようなイメージです。
※※
これは正極が大きいほど電池のエネルギー密度を上げることができるためです。
他にも、リチウムイオン電池のセパレータを極限まで薄くすることなど、エネルギー密度は上がるが、安全性が下がる傾向にあります。電池の安全性とエネルギー密度はトレードオフの関係にあるともいえます。
このように、リチウムイオン電池の設計によって、電池の安全性を損ねることがありますので、気を付けましょう。
リチウムイオン組電池におけるシステムの不具合
基本的に最終製品としてリチウムイオン電池を使用する場合は、単電池として使用することは少ないです。
単電池を並列接続もしくは直列接続させた組電池として使用することが多いです。
そのため、セルバランスとよばれる電池ごとのSOC(充電率)を調整する必要がでてきます。セルバランスが崩れると一つにセルのみの充電状態がおかしくなるケースがあり、過充電や過放電となります。
以下のようなイメージです。
そのため、外部からの衝撃などの機械的な力、高温などの熱的な力が原因でシステムが破損すると、組電池の安全性が低下します。結果として、爆発につながる可能性もでてきます。
リチウムイオン電池や電池搭載最終製品の安全性を高める方法
①リチウムイオン電池設計レベル(電池の材料)から安全性を高める。
使用する材料や電池の構成により、安全性は変化します。
一般的に正極ではオリビン構造と呼ばれる結晶構造を有する活物質(代表的なものにリン酸鉄リチウムが、負極ではチタン酸リチウムという活物質を使用した電池が安全性が高い傾向にあります。
先にも述べた理由から、リチウムイオン電池の安全性を高める最も簡単な方法は、正極活物質をリン酸鉄リチウム等のオリビン系を使用することです。
ただ、作動電圧は3.2V程度と他の種類のリチウムイオン電池よりは低いです。
他にも、耐熱性の高いセパレータや分解反応が起こりにくい電解液を使用すること等でも安全性は向上します。
リチウムイオン電池の構造面からは「通電時電池内部の電流分布がより均一であること(局所発熱しないような構造)」「放熱性が高いケース材料と使用すること」などにより、安全性の向上につなげることが可能です。
②リチウムイオン電池の製造プロセスや検査工程を見直す
原因の項目にも述べた通り、電池の組み立てラインや検査方法を見直すことで、不良品の出荷を防ぐことが可能です。
混練・塗工といった電極作製工程、エレメントの組み付け工程、注液工程、エージング工程など各種プロセスにおいて適切な検査方法を実施するといいです。
また、品質管理手法である3σでの管理あったり、工程能力指数のCP,CPK値のチェックを行い、電池の作製工程を見直していきましょう。
③システムやPTC素子により最終製品としての安全性を高める。
システム(制御基板)により電池の電圧や動作温度を高精度で管理することで、リチウムイオン電池システムとしての安全性を高めています。
また、PTC素子(positive temperature coefficient of resistance)と呼ばれる、内部に正の温度係数となる抵抗を有しており、温度が上昇する(異常発熱)と抵抗が上昇し、通電電流を低下・遮断する素子を電池に組み込むことで安全性を高めています。
他にもリチウムイオン電池単体の安全性が損なわれたとしても、周囲を強固な金属・樹脂ケースで覆うことで「電池ユニットとして安全性を確保していれば問題ない」という考え方もあります。
上記のように、各工夫によりリチウムイオン電池の高エネルギー密度化と安全性を両立させるための努力により、現在リチウムイオン電池が商品化、普及しています。
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