イオンの移動度とモル伝導率 輸率とその計算方法は?

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イオンの移動度とモル伝導率

 

こちらのページでは、イオンの移動度や輸率(輸率の計算)に関する内容を解説しています。

 

・イオンの移動度の原理

 

・イオンの移動度とモル伝導率

 

・輸率とは?輸率の計算方法は?

 

というテーマで解説していきます。

 

 

イオンの移動度の原理

イオンの移動度とは一言でいうと、言葉そのままで「イオンの移動の速さ、しやすさ」と言えます。

 

特にこのサイトのテーマであるリチウムイオン電池では、電解液中等でLiイオンが移動することで反応が起こります。

 

そのため、この電解液中のLiイオンの移動が遅い、つまり移動度が低いと、電池としての内部抵抗が高くなってしまいます。

 

内部抵抗を低く保つためにも、Liイオンの移動を速くする設計が必要であり、設計するためにはその原理を理解することが重要です。

 

イオンの移動の原理について下記に解説します。

 

イオンがある溶液中に存在し、その溶液の粘度がη /Pa・s である時のイオンにかかる力の釣り合いを
考えていきます。

 

イオンは電荷z、半径a /mであり、移動速度をs /ms^-1とします。電場の強さE/ Vm^-1、で電気素量eを用います。

 

電場から受ける力(左辺)と、溶液の摩擦力(右辺)が釣り合うため、下記の等式が成り立ちます。

 

 

 

 

この等式をsについて解くと、一定になったと時の速度(ドリフト速度)が算出できます。

 

そして、単位電場当たりのドリフト速度のことをイオンの移動度と定義されており、下記の通りとなります。

 

 

 

ここで、移動度の項の中に電荷や電気素量、そして溶液の粘度等を含むため、電気伝導率と密接な関係があることが想像できますね。

 

実際に関係があり、電気伝導率の大元となるモル伝導率とイオンの移動度の関係を解説します。

 

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イオンの移動度とモル伝導率

モル伝導率とイオンの移動度の関係は以下の通りです。

 

 

 

さらに、カチオン成分とアニオン成分のモル伝導率の和が極限モル伝導率であるため、上式を用いると
下記の関係式が導かれます。
(こちらのページで解説したイオン独立の法則のおさらいから記載しています)

 

 

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輸率とは?輸率の計算方法は?

極限モル伝導率とイオンのモル伝導率の関係を解説したところで、
次に輸率という言葉について解説します。

 

リチウムイオン電池では、電解液中のリチウムイオン(カチオン)が電荷を運ぶキャリアとして機能します。

 

溶媒にリチウムイオン(カチオン)が存在するということは、アニオンも存在することになります。
(電気的中性の法則より)(リチウムイオンを生成するために塩を溶媒に溶かし、解離させています)

 

電池を通電させた際、リチウムイオンが移動しやすいほど、電荷を多く運べる、
つまり電流が流れやすくなる(電池の内部抵抗が小さくなる)ことになります。

 

そのため、リチウムイオン(カチオン)を出来るだけ移動しやすくすることが電池設計として重要です。

 

つまり移動速度の速いイオンは、遅いイオンより多くの電荷を運べるということになります。

 

そして、特定のイオンが全体の電流の中で運ぶ電流の割合のことを輸率と呼びます。

 

イオンの輸率の定義は以下の通りです。

 

 

 

また、モル伝導率を用いると無限希釈時のイオンの輸率は以下のように表すことができます。

 

 

 

 

リチウムイオン電池では、Liイオン(カチオン)の輸率はおおよそ0.3~0.4程度と0.5以下になっていることが多いです。

 

移動の定義(u=ze/6πηa)から分母に半径aが存在するため、半径が小さいほど移動度が高くなります。

 

それでは、Liイオンの半径は小さいのに、なぜ輸率が0.3~0.4程度なの?と思うでしょう。

 

それは、Li塩が電解液溶媒に解離する際、Liイオンが溶媒和し、実質の半径(ストークス半径)がLiイオンより大きくなっており、
さらにはアニオンよりも大きくなっていることが多いことが理由です。

 

抵抗の小さい電解液を設計するための指針についてはこちらに解説しています。

 

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