リチウムイオン電池のエレメント作製後のケース挿入、電解液注液工程
リチウムイオン電池作製全体の流れはこちらにて解説しています。
こちらのページでは、エレメント作製後のエレメントのケースへの挿入、電解液注液、封止工程に関する以下のテーマで解説しています。
・リチウムイオン電池のエレメント作製後のエレメントのケース挿入工程
・リチウムイオン電池の電解液注液工程
・リチウムイオン電池の封止工程
について解説しています。
この後には、リチウムイオン電池の予備充電(化成充電)、ガス抜き、本充電、エージング工程と続きます。
リチウムイオン電池のエレメント作製後のエレメントのケース挿入工程(ラミネート型)
エレメントを作製しましたら、次をケースに挿入する工程が続きます。
ケースは主に円筒系金属ケース、角型金属ケース、ラミネート材(アルミラミネート)の3種類に大きく分類することが出来ます。
また、エレメントの形状もケースの種類や大きさにより、変化させます。
まずは、ラミネート型電池用のエレメント(積層式にて組み付け)をケース(ラミネート材)に挿入する工程について解説します。
以下にこちらのページにて記載内容を一部を引用させて頂きます。
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(引用文を一部改訂したもの)
エレメントへのタブの取付(ケース外部に電気エネルギーを取り出すため)
そして、上述のエレメントにタブを取り付けます。
タブとは薄い金属材料のことを指し、主に正極にはアルミ板、負極には銅板の厚み0.1~0.3mm程度のものを使用されることが多いです。
正極にアルミ、負極に銅を使用する理由は、集電箔と同様に電気的、耐電解液、耐薬品的な制限があるからです(こちらで解説しています)。
このタブにより集電体に集められる電気エネルギーを外部に取り出すことができます。
エレメントの各電極の耳を束ねて(つまむようなイメージ)タブに一括で超音波溶着することが一般的です(メ(超音波溶着前に電極の耳を束ねるためにクリップのような薄い金属を装着するメーカーもあります)。
下図では両端から各タブが出ていますが、同じ側からタブが出ている場合も多くあります。
組電池にした場合の配置等により、適宜単電池の設計も最適化されます。
そして、このタブが付いているエレメントをラミネート材に入れます。
電池材料に使用されるラミネート材はアルミラミネートフィルムなどとも呼ばれることもありは、一般的には表面が樹脂-金属(アルミ)-樹脂といった三層構造がベースになっています。
金属部はアルミでなく、ステンレスが使用されることもあります。
ラミネート材全体の厚みは100~150μm程度が一般的であり、各層の厚みは30~60μm程度です。
内層は電池の電解液に触れるため、耐電解液性や耐薬品性、また電解液注液後熱をかけ封止(シール)するため、融点が高すぎないPPやPEなどが使用されることが一般的です。
また、金属と樹脂を接着させるためには、表面を化学的に処理する必要があります。(接着させることが難しいため)。
そして、このラミネート材をエレメントの両側から挟み、シールします。
ラミネート材はエレメントのくぼみに対応するように型押しされていることが一般的です。
また、電解液を注液するために、一辺分をシールさせずに口が開いた状態にし、そこから電解液を注液したり、ラミネート材の形状を元から注液しやすい形(注液口を設けておくなど)にしておき、そこから注液する工夫がされている場合があります。
負極活物質に黒鉛が使用されている場合は、SEI生成時のガス発生が起こるため、注液し少し充電させ(予備充電や化成充電と呼びます)SEIを生成した後にガス抜きを行う必要があります。
最後に、注液部もシールしましたら、ラミネート電池の完成です。
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というように、ラミネート電池では、
①エレメント作製後にケース(ラミネート材)外に電気的エネルギーを取り出すためのタブを装着。
②タブが出て、エレメントが覆われるようにラミネート材をセットし、注液口となる部分はシールせず、他の部分をシールし、電解液を注液できるようにする。
③電解液を注液する。
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リチウムイオン電池の本充電工程
化成充電、ガス抜きの後は、本充電、初回放電容量確認をを行います。
本充電の条件は一般的には、通常使用する充電上限電圧に設定することが多いですが、初期の本充電条件のみ変化させ(たとえば充電電圧を通常時の上限電圧より多少上げるなど)、SEIの形成をより良質なものにする場合があります。
例えば、25℃で1C、2~3h程度充電上限電圧(一般的なリチウムイオン電池でしたら4.2~4.25V)でCCCV充電を行うことが一般的です。
(使用する活物質の組み合わせにより電圧は変化しますので気を付けましょうね。充電電圧を間違えると過充電になる場合があります)
本充電後は休止を挟み、初回容量確認試験を行います。
初回容量確認試験では、25℃、1C、放電終止電圧2.5V付近にて、CC放電を行うことが一般的です。
この後は社内評価用の試験セルとして使用する場合は、各温各率の出入力試験であったり、サイクル試験やフロート試験、直流抵抗測定試験など評価したい試験を実施します。
社外に出荷する場合は、不良品をはじく必要があるため、エージングと呼ばれる電池の初期の劣化状態(SOH)から不良品かどうかの判定を行います。
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リチウムイオン電池のエージング工程
リチウムイオン電池のエージング工程では、不良品をはじくために電池の初期の劣化を見て出荷の可否を判別しています。
具体的には、電池の初期の電圧降下(自己放電のため)により判定することが一般的です。
電圧降下値の基準を決めるためには、実際にセルを作製、その機種のセルでの電圧降下値のデータを多く取得することにより、決めていきます。
例えば、初回放電容量確認試験後に補充電としてSOC10~30%程度になるまで充電します。
この値を初期値とし(下グラフの最も左のプロット値)、1週間から1か月程度放置させます。
すると不良品セル以外のセルは同様の電圧降下挙動を示しますが、不良品セルは下図のよう、電圧降下が大きくなります。
不良品セルの主な原因は、微小短絡を起こしていることなどが挙げられます。
そして、微小短絡が起きる原因としましては、正・負極、セパレータの位置がずれていることであったり、セパレータに穴が空いていることなどが挙げられます。
また、不良品かどうかを判定するための基準値はメーカーによっても異なりますが、例えば1週間後の電圧降下により判定基準を決めようとする場合、初期値と1週間後の電圧の差を測定し、その平均値±と3σの範囲(正規分布とよばれる科学的な現象を解析する際に一般的に使用する統計的分布)を電圧降下値基準にする場合があります。
各メーカーにより、品質上問題がないという確証が得られる値に最適化されているとも言えます。
また、他にも不良品をはじく方法としましては、混練のスラリーの粘度や色みの異常であったり、塗工時のスジの発生確認、エレメント作製時のショートチェック(絶縁抵抗器により絶縁抵抗を測定)、ケース挿入後のショートチェック、初回容量確認時の容量や内部抵抗が平均値±3σの範囲に入っていることなどが挙げられます。
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