腐食とは?腐食のメカニズムや種類 電位-pH図(プールベダイアグラム)
こちらのページでは電気化学と密接な関係がある腐食関連のテーマである
・腐食とは?腐食の原理(メカニズム)は?
・腐食(湿食)の種類
・電位-pH図(プールベダイアグラム)とその作図方法
について解説しています。
腐食とは?腐食の原理(メカニズム)は?
そもそも腐食の定義とは何なのでしょうか?
腐食とは金属がさびる現象のことを指し、その中でも湿食と乾食に分類することができます。
湿食とは水分や溶液との反応によりさびが生じる現象のことで、逆に乾食とは主に空気中の酸素を始めとした、気体との反応によりさびが生じる現象のことを指します。
そして、腐食の中でも湿食は電気化学と密接な関係があります。
腐食は電池と同じようにアノード、カソード、電解質が存在する環境で反応が進むため、局部電池と呼ばれることもあります。
このように、本来起きてほしくない場所で電池のような電気化学的な反応がおこり、材料が劣化することが腐食の仕組み(原理)であるといえます。
関連記事
アノード、カソードとは?
イオン化傾向とは?
標準電極電位とは?(どちらがアノード、カソードになりやすいか判断できます)
異種金属腐食(ガルバニック腐食)と電食
隙間腐食(すき間腐食)
腐食(湿食)の種類
一般的に鉄がさびる現象が腐食では最も身近な例として考えられますが、さびの生成の仕方により腐食(湿食)は分類することができます。
主に酸性の溶液中などでは水素イオン(H+)の濃度が高くなっているため、この水素イオンが反応し水素を発生させます。
このタイプの腐食のことを水素発生型腐食と呼び、主にイオン化傾向が大きい金属つまり卑な金属で、かつ酸性条件下などでこの腐食が起こります。
もう一つの種類は、主に中性やアルカリ性溶液下で溶存酸素が反応し、つまり酸素を消費する反応により起こるタイプの腐食です。
このタイプの腐食のことを酸素犠牲型腐食と呼び、主にイオン化傾向が小さい金属つまり貴な金属で、かつ中性やアルカリ性下などでこの腐食が起こります。
主な反応例、イメージ図を下記に示します。
そして、腐食は局部電池とも呼ばれ、電池と同じようにアノード(酸化反応が起こる極)とカソード(還元反応が起こる極)と電解質がある状況下で反応が起こるのです。
つまり、金属、水素イオンや溶存酸素などの酸化剤、電解質の三つがそろうことで反応が起こるのです。
上右図で示しました酸素犠牲型腐食において鉄が溶けた場合は、水分中の溶存酸素、水とさらに反応することでFe(OH2)を始めとしたさびが発生します。
関連記事
アノード、カソードとは?
イオン化傾向とは?
標準電極電位とは?(どちらがアノード、カソードになりやすいか判断できます)
異種金属腐食(ガルバニック腐食)と電食
隙間腐食(すき間腐食)
電位-pH図(プールベダイアグラム)と作図方法
電位-pH図とは?
上でFe(OH2)を始めとしたさびが中性やアルカリ性溶液中では発生すると解説しましたが、これの元になっている考え方として電位-pH図、別名プールベダイアグラムと呼ばれるものがあります。
電位-pH図は縦軸に電位、横軸にpHを取ったものであり、ある元素が任意のpHにおいて安定でいられる状態を示した図と言えます。
各境界線は、記載の各物質状態間の(例えばFeとFe2+)平衡電位(腐食電位と呼びます)
鉄の電位-PH図(プールベダイアグラム)は以下のようになります。
図中に記載のFeなどはそれぞれ、対応する電位、pHにおいて安定な状態を表しています。
例えば、電位が-1.0V付近であったらそのpHでもFeが安定であると読み取れます。
作図方法
次に具体的な作図方法を解説します。
ポイントは境界線を引く際、となりあう元素との電気化学平衡時(電子授受平衡とも呼びます)における反応を元に考えていきます。
まず、図中青線のように電位が一定の線(真横に引く線)の引き方について考えます。
例えば、左上のFeとFe2+の境界線を考える場合、Fe2+ + 2e- = Fe の平衡時の反応を考えます。
平衡時、標準電極電位で一定でのため、電位 = -0.44 vs SHEとpHと関係ない式が立てられます。
同様に左下のFe3+とFe2+の境界線は、Fe2+ + 2e- = Fe +0.771 vs SHE の値を用い、作図します。
次に、図中緑線のようにpHが一定の線(縦に引く線)の引き方について考えます。
左下の縦線である Fe3+ + 3(OH)- = Fe(OH)3 の場合を考えていきます。
縦線の場合は、各々の標準生成ギブズエネルギーから平衡定数を算出、平衡定数の中に[OH]項が含まれるため、pHの算出ができるといった具合です。
Fe3+ の標準生成ギブズエネルギーは-4.7kJであることを使用して、計算していきますと、pHは1.15となります。
同様に左下のFe(OH)2とFe2+におけるpHを計算しますと、値が5.84となります。
最後に図中赤線のようにpHが一定の線(斜めに引く線)の引き方について考えます。
斜めに境界線を引くということは、電位とpHの両方が変化することを意味します。
これらを結びつけることができる式はネルンストの式です。
例えば、右上のFeとFe(OH)2の電気化学平衡において、n=2、標準電極電位はEo=-0.063V vs SHEであり、活量や標準状態の温度を代入、計算していくと、変化するものはH+のみとなり、これを変数とした式に変形できるのです。
Fe(OH)2 + 2H+ 2e- = Fe + 2H2Oという電気化学平衡となるので計算していくと
E = -0.063 - 0.059 pHとなります。
同様に、Fe(OH)2と Fe(OH)3の境界線は E = +0.972 - 0.177 pHとなります。
Fe2+と Fe(OH)3の境界線は E = +0.281 - 0.059 pHとなります 。
一度練習も兼ねて、計算してみましょう。
関連記事
電気化学平衡(電子授受平衡)
ネルンストの式とは?
標準電極電位とは?
異種金属腐食(ガルバニック腐食)と電食
隙間腐食(すき間腐食)
pHの計算方法
腐食とは?腐食のメカニズムや種類 電位-pH図(プールベダイアグラム) 関連ページ
- エネルギー変換
- 化学変化の基礎(エンタルピー、エントロピー、ギブズエネルギー)
- 反応ギブズエネルギーと標準生成ギブズエネルギー
- 化学平衡と化学ポテンシャル、活量、平衡定数○
- 電圧とギブズエネルギーの関係○
- 化学ポテンシャルと電気化学ポテンシャル、ネルンストの式○
- ネルンストの式の導出
- 【演習問題】ネルンストの式を使用する問題演習をしよう!
- 電池反応に関する標準電極電位のまとめ(一覧)
- 標準電極電位とは?電子のエネルギーと電位の関係から解説
- 標準電極電位の表記例と理論電圧(起電力)の算出【電池の起電力の計算】
- 標準電極電位と金属の電子状態○
- 電池内部の電位分布、基準電極に必要なこと○
- 基準電極の種類
- 電気二重層、表面電荷と電気二重層モデル
- 電気化学の測定方法 -三電極法-
- サイクリックボルタンメトリーの原理と測定結果の例
- サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法
- LSVの原理と測定結果の例
- クロノアンぺロメトリ―の原理と測定結果の例
- クロノポテンショメトリ―の原理と測定結果の例
- 電荷移動律速と拡散律速(電極反応のプロセス)○
- リチウムイオン電池と等価回路(ランドルス型等価回路)
- リチウムイオン電池と交流インピーダンス法【インピーダンスの分離】
- 【拡散律速時のインピーダンス】ワールブルグインピーダンスとは?限界電流密度とは?【リチウムイオン電池の抵抗成分】
- 電解質の電気抵抗、電気伝導率
- イオンの移動度とモル伝導率 輸率とその計算方法は?
- イオン強度とは?イオン強度の計算方法は?
- 電子授受平衡と交換電流、交換電流密度○
- Butler-Volmerの式(過電圧と電流の関係式)○
- Tafel式とは?Tafel式の導出とTafelプロット○
- 【演習】アレニウスの式から活性化エネルギーを求める方法
- 活性化エネルギー詳細
- 加速劣化試験と電池部材の耐食性評価
- めっきとは?めっきの役割と種類
- 自己触媒めっきと自己触媒
- 【演習問題】電流効率とは?電流効率の計算方法【リチウムイオン電池部材のめっき】
- 隙間腐食(すきま腐食)の意味と発生メカニズム
- 電食・ガルバニック腐食・異種金属腐食
- 濃淡電池の原理・仕組み 酸素濃淡電池など
- 浸透探傷試験(レッドチェック)
- ファラデーの法則とは?ファラデー電流と非ファラデー電流とは?
- ド・ブロイの物質波とハイゼンベルグの不確定性原理
- 波動関数と電子の存在確率(粒子性と波動性の結び付け)
- シュレーディンガー方程式とは?波の式からの導出
- 波の式を微分しシュレーディンガー方程式を導出
- 井戸型ポテンシャルの問題とシュレーディンガー方程式の立式と解
- オイラーの公式と導出
- 光と電気化学 基底状態と励起状態 蛍光とりん光 ランベルト-ベールの式
- 光束・光度・輝度の定義と計算方法【演習問題】
- 電磁波の分類 波長とエネルギーの関係式 1eVとは?eV・J・Vの変換方法【計算問題】
- 光と電気化学 励起による酸化還元力の向上
- 溶解度積と沈殿平衡 導出と計算方法【演習問題】
- 再配向エネルギーと活性化エネルギー
- 内圏型と外圏型電子移動の違い
- pHメーター(pHセンサー)の原理・仕組みは?pHメーターとネルンストの式
- ガスセンサー(固体電解質)の原理とは?ネルンストの式との関係は?
- オリゴマーとは?ポリマーとオリゴマーの違いは?数平均分子量と重量平均分子量の求め方【演習問題】
- 面心立方格子、体心立方格子、ミラー指数とは?【リチウムイオン電池の正極材の結晶構造は】
- アタクチックポリマー、イソタクチックポリマー、シンジオタクチックポリマーの違いは?【ポリマーのタクチシチ―】
- おすすめの電気化学の参考書
- 【電流密度】電流密度と電流の関係を計算してみよう【演習問題】
- ギブズの相律とは?F=C-P+2とは?【演習問題】
- 状態関数と経路関数 示量性状態関数と示強性状態関数とは?
- 定容熱容量(Cv)と定圧熱容量(CP)とは?違いは?
- 分子間相互作用
- 理想気体と実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの状態方程式) 排除体積とは?排除体積の計算方法
- オクテット則
- 【緩衝作用】酢酸の緩衝溶液のpHを計算してみよう【酢酸の解離平衡時の平衡定数】
- 電子軌道 s軌道・p軌道とは?
- 混合エントロピー 計算と導出方法は?
- 錯体・キレート 錯体平衡の計算問題を解いてみよう【演習問題】
- 「速度論的に安定」と「熱力学的に安定」
- 触媒の仕組みと化学反応
- 分配平衡と分配係数・分配比 導出と計算方法【演習問題】
- 塩橋の役割と入れる理由
- レナードジョーンズポテンシャル 極小値の導出と計算方法【演習問題】
- ルイス酸とルイス塩基の定義 見分け方と違い
- 膜電位の定義と計算方法
- トルートンの規則 トルートンの式
- 化学におけるクラスターとは
- 結晶粒界(粒界)の定義と粒界腐食
- 化学におけるキャラクタリゼーションとは
- 化学におけるバルクとは?バルク水とは
- 電気化学における活性・不活性とは?活性電極と不活性電極の違い
- 1eVは熱エネルギー(温度エネルギー)に換算するとどのくらいの大きさになるのか
- 物質の相図(状態図)と物質の三態の関係 水の状態図の見方 蒸発・凝縮・融解・凝固・昇華・凝結とは? 三重点と臨界点とは?
- プランク定数とエイチ÷2πの定数(エイチバー:ディラック定数)との関係
- 活量係数とは?活量係数の計算問題をといてみよう【活量と活量係数の関係】
- 光触媒である二酸化チタンの原理や用途
- 水素脆性(ぜいせい)、水素脆化の意味と発生の原理は?ベーキング処理とは?
- 波数と波長の変換(換算)の計算問題を解いてみよう
- 波長と速度と周波数の変換(換算)方法 計算問題を解いてみよう
- 波数とエネルギーの変換方法 計算問題を解いてみよう