連続蒸留とは?蒸留塔の設計における理論段数・最小還流比とは?【演習問題】
当サイトのメインテーマであるリチウムイオン電池は高電圧、高容量、高エネルギー密度、長寿命などのメリットがあるためスマホバッテリーや電気自動車搭載電池、家庭用蓄電池などの採用されています。
ただ近年ではリチウムイオン電池の発火事故が急増しており、リチウムイオン電池の安全性(危険性)が認識されるようになり、この安全性の向上がリチウムイオン電池普及のための課題の一つであるといえます。
IOT化が今後進むにつれ、リチウムイオン電池の重要性がより増してくるため、リチウムイオン電池に関する知識を増やすとより快適な生活が遅れるでしょう。
リチウムイオン電池だけでなく、製造業において化学工学の知識は不可欠です。例えば、リチウムイオン電池の製造工程としては、電極スラリーを混練する際の撹拌する力や与えるエネルギーの設計、電極スラリーを混練したあとの電極基材へ塗布した後のコーターでの乾燥条件の設計などに化学工学の知識が必要になる場合があります。
ここでは、化学工学における基礎技術である蒸留の中でも産業的に採用されている「連続蒸留」について解説していきます。
・連続蒸留とは?蒸留塔と濃縮部・回収部や還流比Rの求め方
・連続蒸留の物質収支と低沸点成分収支 蒸留塔設計に必要な計算式を書き出そう
・蒸留塔設計に必要な計算式を変形しよう 濃縮部操作線・回収部操作線・q線の求め方
というテーマで解説しています。
連続蒸留とは?蒸留塔と濃縮部・回収部や還流比Rの求め方
連続蒸留(Flash Distilation)とは、産業的にも使用されている蒸留手法といえます。言葉の通り、連続して蒸留を繰り返す方法であり、基本的には蒸留塔とよばれる連続して蒸留することが可能な装置によって蒸留されます。
連続蒸留と単蒸留・ フラッシュ蒸留との違いは、蒸留操作を複数回行うか、1回行うかということといえます。
基本的には連続蒸留の考え方は、単蒸留やフラッシュ蒸留の考え方と同じであり、物質収支と低沸点成分の収支をまず考えていきます。
以下に連続蒸留を行う蒸留塔のイメージ図を記載します。
まず、蒸留塔においてある段から原料をいれます。原料供給段よりも上の段ののことを濃縮部と呼び、下の段のことを回収部といいます。
濃縮部と呼ばれる理由は、蒸留本来の目的である低沸点成分が濃縮されるためです。また、回収部と呼ばれる理由は、低沸点成分意外の目的物を濃縮したもの以外の物質を回収するためです。
また、単蒸留・フラッシュ蒸留と連続蒸留との違いは他にもあり、濃縮した液(留出液)の一部をリサイクルする還流という操作も同時に行うことです。
還流比は基本的に記号Rで表し、還流比R = 還流する分の液量 / 留出液量 で定義されます。
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連続蒸留の物質収支と低沸点成分収支 蒸留塔設計に必要な計算式を書き出そう
単蒸留やフラッシュ蒸留と同じように、連続蒸留においても液量収支(物質収支)と低沸点成分収支を考えていきましょう。
①液量収支(物質収支): F = D + W (F:原料液量、D:留出液量、 W:缶出液量[mol/h])
②低沸点成分の収支: F xf - DxD = W xW
という連立方程式をとくと以下のように、留出液量D[mol/h]、缶出液量W[mol/h]がでます。
つぎに、濃縮部の蒸気量V・回収部の蒸気量V'と濃縮部の液量L・回収部の液量L'の量を考えていきましょう。
濃縮部の物質収支、低沸点成分の収支を考えましょう。
以下の通りです。
ここで、蒸気量と液量といった別の状態のもの含めて考えることがポイントです。また、蒸気(記号y)の段数がn+1段のときに、液体(記号x)の段数がn段と一段分ずれますので気を付けましょう。
同様に回収部の物質収支、低沸点成分の収支を考えましょう。
回収部では缶出液量を考慮することを忘れないようにしましょう。
つぎに、原料中の液の割合をqとおいて考えると、蒸気組成が1(1-q)であらわすことができます。
すると
L' = L +qF
V' = V - (1-q) F
という式が成り立ちます。
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蒸留塔設計に必要な計算式を変形しよう 濃縮部操作線・回収部操作線・q線の求め方
つぎに、先にも述べた式を変形していきましょう。
濃縮部の物質収支に着目して、還流比R = L / DとV = L + D の関係を代入して、式を整理しましょう。
このy n+1 = R / (R + 1) Xn + 1 / (R + 1) XD という計算式のことを濃縮部操作線とよびます。
同様にして、回収部においても式変形をしていくと以下の式を得ることができます。
そして、以下のイメージ図のように、濃縮部操作線と回収部操作線を引き、交わった部分が原料供給段におけるx,yの組成を表しています。
つまり、上で整理した2つの式の交点を求めることが必要です。単純に整理した2式の交点を計算する際に、式を連立させましょう。
すると以下のように整理でき、この線のことをq線とよびます。
ここまでが、濃縮部操作線、回収部操作線、q線といった蒸留において重要な式の導出方法です。
理論段数の算出方法やMcCabe - Thiele法(マッケーブシール法)による作図方法、最小還流比の算出方法は別途ページで解説しています。
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