電気二重層、表面電荷と電気二重層モデル
最近では電気二重層キャパシタも徐々に普及し始め、比較的電気二重層という言葉を聞くことが増えつつあるように感じています。
しかし、この電気二重層という言葉は一般的にあまり聞く言葉でなく、こちらのページでは電気二重層について解説しています。
・電気二重層と表面電荷とは?
・電気二重層モデル
というテーマで解説しています。
電気二重層、表面電荷とは?
そもそも電気二重層、表面電荷とは何か?下記に解説します。
電池の端子間に、電解液等が分解しない範囲で電圧をかけると、
・正極-電解液界面の電解液側には負の電荷をもったイオンが、
・負極-電解液界面の電解液側には正の電荷をもったイオンが
近寄ってきます。
上記のように、電極と異符号の電荷が相対的に増えている領域のことを電気二重層と呼びます。
下図に電気二重層のイメージを示します。
逆に電極側に蓄えられている電荷のことを表面電荷と呼びます。
特に水銀滴における表面電荷はリップマンの式と呼ばれる、表面電荷と電位、表面張力の関係式で
表すことができます。
また、表面電荷と電位との関係を表すグラフは電気毛管曲線とも呼ばれ、下図のよう上に凸な曲線を描きます。
このグラフの接線がdγ/dφつまり、表面電荷qに当たります。
よって、ある電位において極大値を取る際、傾きは0となっています。
この時、表面電荷も0となるため、電解液側にも過剰な電荷はなく(電気二重層がないと言えるでしょう)、
またこの状態における電位のことをゼロ電荷電位と呼びます。
上記ではイメージとして、一つの曲線を描いていますが、希薄溶液の種類により(溶かす塩により)極大値や極大値を取る位置が変化します。
また電気二重層の静電容量は電気二重層容量と呼ばれ、一定ではなく電位によって変化していきます。
電気二重層容量とはコンデンサーにおける静電容量のようなものであり、交流インピーダンス法などで測定し、その値を等価回路に当てはめる際、実際にコンデンサー成分として考慮することが一般的です。
電気二重層容量と電位の関係式は以下のような曲線を描き、薄いほどゼロ電荷電位近傍で極小を取りますが、濃度が濃くなるにつれ、この極小値部分の形状がなだらかになっていきます。
上図のような電気二重層容量と電位の関係を解析するために、様々な電気二重層モデル、それを用いたシミュレーションが研究されています。
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電気二重層モデル ヘルムホルツの電気二重層モデル
電気二重層モデルにはいくつかのモデルがあり、最も簡単なモデルとしてヘルムホルツの電気二重層モデルというものがあります。
ヘルムホルツの電気二重層モデルは下図の通りです。
電池において電圧を印加した時(電解液の分解等が起きない範囲で)の負極近傍の拡大図を元に解説します。
電気化学では電子のエネルギーに着目すると現象を理解しやすいため、
電子のエネルギーが高い方が上、つまり電位にすると-が上の表記となります。
負極の表面に、直線的に負の表面電荷が蓄えられ、電解液側には正の電荷(電気二重層)が
蓄えられます。
このシンプルなモデルが、ヘルムホルツの電気二重層モデルです。
この時の電気二重層容量(電気二重層に蓄積できる容量)は下記のよう、表されます。
電気二重層と表面電荷間の距離dと比誘電率のみがパラメータで、電位に依存しないということになり、これでは上述した実験結果(電位により電気二重層容量が変化する)と異なります。
そのため、このモデルは電気二重層に関して、説明できない部分があるとのことで、
このモデルを拡張させたグイ-チャップマンの電気二重層モデルというものが提案されています。
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グイ-チャップマンの電気二重層モデル
グイ-チャップマンの電気二重層モデルでは、ヘルムホルツの電気二重層モデルで提案されたような電荷が直線的に配置されるという考えから、ある程度幅を持って配置されるという考えに変更されています。
グイ-チャップマンの電気二重層モデルは下図の通りです。
グイ-チャップマンの電気二重層容量は、式に表すと下記のようになります。
ヘルムホルツの電気二重層では表現されていなかった電位依存性の項(φ負極-φ電解液)や
イオンの電荷の絶対値の項(ze)、イオン濃度の項(単位体積中のイオンの数)等が
追加されています。
この式をもとに電気二重層容量と電位の関係をグラフ化すると、下図のようになります。
下に凸な曲線になることは表現できましたが、電位がゼロ電荷電位から離れたところでは、
電気二重層容量が非常に大きい値になり、実際の実験結果とは異なってしまいます。
そこで、ヘルムホルツの電気二重層とグイ-チャップマンの電気二重層の両方を合わせたような
イメージのグイ-チャップマン-シュルテンの電気二重層というものが提案されています。
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電気二重層モデル グイ-チャップマン-シュルテンの電気二重層
グイ-チャップマン-シュルテンの電気二重層とは、電解液中の溶媒分子が電気二重層の形成に関わる
イオンにも溶媒和していることの影響を考慮した電気二重層モデルになります。
電解液中の溶媒分子が電気二重層の形成に関わるイオンにも溶媒和していることとは、
具体的には以下の通りです。
イオンは溶媒和しているため、電極に最も近づくことが可能なイオンは溶媒分子1個分以上の
距離があるということです(下図)。
これを考慮したグイ-チャップマン-シュルテンの電気二重層モデルは以下の通りです。
イオンが負極に最接近できる溶媒分子1個分空いた距離にヘルムホルツの電気二重層を形成し、
この面を外部ヘルムホルツ面(Outer Helmholtz Plane)と呼びます。
この外部ヘルムホルツ面の外側にはグイ-チャップマンモデルとなっています。
ここで、電気二重層容量は上図イメージの通り、
負極-外部ヘルムホルツ面までの容量C負-外と、外部ヘルムホルツ面-電解液までの容量C外-電の
直列接続した合成容量と考えられており、式にすると以下の通りです。
グイ-チャップマンモデルとは、適用する電位が異なるところに注意しましょう。
すると、容量の一部がゼロ電荷電位付近で極小を取るようになり、またゼロ電荷電位から大きく
離れた電位においても、容量が非常に大きな値を取らなくなりました。
(実際の実験結果に近い。)
しかし、実際の実験結果ではゼロ電荷電位から離れた領域でも容量の変化が起きており、
グイ-チャップマン-シュルテンモデルでも説明できない部分があります。
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特異吸着イオンの存在と各モデルでも説明できない項目
上記の説明できない部分があることとして、電極に特異的に吸着するイオンが存在することが
挙げられます。
特にアニオンが特異的に吸着することが知られており、電極に直接吸着することがあります。
(溶媒分子をイオンと電極の間に挟みません。)
この特異吸着イオンの存在により、実際の実験結果ではゼロ電荷電位から離れた領域で容量の変化が起きており、おおよその予想は上述のモデルにて説明できるものの、
詳細まではやはり実験してみないとわかりません。
ちなみに、特異吸着イオンの中心を直線で結んだ面を内部ヘルムホルツ面(Inner Helmholz Plane, IHP)
と呼びます。
シミュレーションも大事ですが、実際に手を動かしてみて、初めてわかることも世の中には多々あるのでしょう。
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