標準電極電位の表記例と理論電圧(起電力)の算出【電池の起電力の計算】
このページでは、
・標準電極電位の表記例とイメージ
・標準電極電位から理論電圧を算出する方法(例:ダニエル電池の反応)
(標準電極電位の計算方法)
・標準電極電位を求める方法 熱力学データからの計算
・参照電極の違いによる電位の換算(変換)方法【基準電極と電位の換算】
について解説しています。
標準電極電位の表記例とイメージ
ある酸化還元反応の標準電極電位Eoのを簡易的に表記する場合は、Eo(酸化体/還元体)の順番に記載します。
ここで銅イオンと銅の反応における標準電極電位(活量が酸化体と還元体両方とも1の時の電位)の表記例を以下に記載します。
このように標準電極電位は表記され、電位との対応イメージは以下のようになります。
電子のエネルギーが高い方を上にしているため、つまり電位の負が上であるため、標準水素電極(SHE)から下の領域が正、上の領域が負の電位となります。
また、標準電極電位基準であることを表すために ~V vs SHE と表記します。
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標準電極電位から理論電圧(起電力)を算出する方法
標準電極電位の表記例がわかりましたら、実際の反応式から理論電圧(起電力)を算出してみましょう。
ダニエル電池の反応を例に標準電極電位から起電力(理論最大電圧)を算出してみましょう。
(各電極で反応が起こる条件下にあると仮定します(電解質等々すべて揃っているとします))
標準電極電位は以下の通りです。
・Zn2++2e-⇄Zn Eo=-0.763V vs SHE
・Cu2++2e-⇄Cu Eo=+0.337V vs SHE
イメージ図を活用すると上記のような位置関係になります。
Zn2++2e-⇄Zn 系の方が電位が低いため(電子エネルギーが高いため)、Zn2++2e-⇄Zn系からCu2++2e-⇄Cu 系に電子が移動します。
よって、この自発反応の式は以下の通りになります。
・Zn→Zn2++2e-・・・・・・・・・・①
・Cu2++2e-→Cu ・・・・・・・・・②
理論的な最大電圧=0.337-(-0.776)=1.113 Vとなります。
ここで注意すべきことは、E0は示強変数(物質量によって変化しない)であるため、係数をかけることなく計算することです(※ちなみに物質量に依存する変数のことを示量変数と呼びます)。
このように、標準電極電位から理論電圧や自発的に反応する向きを算出できます。
(ちなみに標準電極電位はほとんどは⊿fGを元にした熱力学データを元にした計算値です。)
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標準電極電位を求める方法 熱力学データからの計算
また、標準電極電位自体がどのように求められているか、以下に解説します。
標準電極電位は熱力学のデータ(具体的には反応ギブズエネルギー)から、算出されています。
例えば、反応式が簡単である、Li金属とLiイオンの標準電極電位を求めてみましょう(リチウムイオン電池における低温時の高レート充電により、LiイオンがLi金属として析出する反応(電析とも呼びます)でもあります)
Li+ + e- → Li
において、Li+の標準生成ギブズエネルギーは-293.31 kj/molです。
Li金属の標準生成ギブズエネルギーは0であるため、反応ギブズエネルギー(右辺ー左辺)は
0 = -( -293.31 - FEo)という等式が成り立ちます(Eoが標準電極電位)。
ファラデー定数が約96500C/molであることと、単位[J]=[C]・[V]であることに注意して、
よってEo = - 293310 / 96500;≒ - 3.04 V vs SHEとなります。
つまり、SHEに対して-3.04Vの位置にLi+/Liの溶解析出電位があるとも言えます(リチウムイオン電池ではSHEよりもこのLi+/Liを基準に考えることが多いため、覚えておくと良いでしょう)。
このように、反応生成ギブズエネルギーに-nFE(今回は反応電子数n=1)を入れた等式を作り、この等式を説くことで標準電極電位を計算することができます。
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参照電極の違いによる電位の換算(変換)方法【基準電極と電位の換算】
標準電極電位では通常SHE基準(H2 ⇄ 2H+ + 2e-)で考えます。
しかし、上述のように例えばリチウムイオン電池関連の反応を考える場合は、Li+/Li基準で考えた方がわかりやすく、都合がよい場合があります。
下に、SHEを一般的な各基準電極やLi+/Li電位基準に変換する方法について記載しましたので、参考にしてみてください(※基準電極として必要な条件はこちらで解説しています)。
銀-塩化銀電極
銀-塩化銀電極は一般的にpHメーターの基準電極などに使用されています。
一般的には、[cl-]を1.0Mにして使用する場合と飽和状態のkCl溶液中で使用する場合があります。
若干電位が異なり、[cl-]を1.0Mにして使用する場合は、+0 V vs Ag-Agcl = +0.222 V vs SHEとなり、vs Ag-Agcl から vs SHEに変換する場合は、この+0.222を加えればOKです。
同様に、飽和状態のkCl溶液中で使用する場合は、+0 V vs Ag-Agcl (飽和KCl中)= +0.199 V vs SHEとなり、vs Ag-Agcl (飽和KCl中)から vs SHEに変換する場合は、この+0.199を加えればOKです。
逆にSHEから各々の基準電極基準に変化したい場合は、上の値を引けばOKです。このようにして、参照電極の変更に伴う電位の換算ができるのです。
カロメル電極
水銀を使用するため最近はあまり使用されていませんが、SCEという名で良く使用されていた有名な基準電極です。ご参考までに。
[cl-]を1.0Mにして使用する場合は、+0 V vs SCE= +0.268 V vs SHEとなり、vs SCE から vs SHEに変換する場合は、この+0.268を加えればOKです。
同様に、飽和状態のkCl溶液中で使用する場合は、+0 V vs SCE (飽和KCl中)= +0.241 V vs SHEとなり、vs SCE(飽和KCl中)から vs SHEに変換する場合は、この+0.241を加えればOKです。
逆にSHEから各々の基準電極基準に変化したい場合は、上の値を引けばOKです。
Li+/Li基準
Li+/Li基準に変換する場合は、、+0 V vs Li+/Li= -3.045 V vs SHEとなり、vs Li+/Li から vs SHEに変換する場合は、この-3.045を行えばOKです。
例えば、リチウムイオン電池において黒鉛負極へLiイオンが挿入された状態の電位は 約0.1V vs Li+/Liですが、これをSHEに変換すると 約-2.945V vs SHEとなります。
逆にSHEからLi+/Li基準に変換したい場合は、+3.045を行います。
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