三電極法(3電極法)とは?なぜ三電極系にするのか?【電極の評価方法】

当サイトでは記事内に広告を含みます


三電極法(3電極法)とは?【電極の評価方法】

 

溶液系における電気化学の測定法として、三つの電極(三電極系)を用いて基準電極に対する測定したい電極の電位を測定する方法(三電極法)が一般的です。

 

それでは、一見二つの電極さえあれば電極の評価はできそうですが、「なぜ三電極系を採用する必要があるのか」知っていますか。

 

ここでは「三電極法とは何か」「三電極系の構成」「三電極系を採用する理由」について、解説していきます。

 

 

 

三電極法の原理【電極の評価方法】

 

三電極法とは、

 

①作用極(Working electrode)
②対極(Counter electrode) もしくは補助電極(Auxiliary electrode)
③参照極(Reference electrode)
と呼ばれる三つの電極により、作用極の評価を行う測定方法です。

 

測定の流れは以下の通りです。

 

作用極に評価したい電極を挟み、この電極と反応させたい電極を対極に位置させます。
そして、作用極の基準としたい電極を参照極に位置させます。
作用極と対極で反応を起こし、この時作用極と対極の外部回路に電流の大部分が流れます。

 

この反応時、参照極から見た作用極の電位を同時に測定します。参照極と作用極の外部回路には、小さな電流しか流れません。

 

これは電流が流れる事でおこる電圧降下(オームの法則による⊿V=IR分)の影響をできるだけ
小さくするためです。

 

また、溶液間の抵抗の影響をできるだけ小さくするために作用極と対極はなるべく近い位置に置き、
その分の電圧降下を避けます。

 

ただし、直接触れると短絡(ショート)の危険があるため、設置時は注意して作業することが必要です。

 

下記に三電極法のイメージ図を示します。

 

(※このサイトのメインテーマであるリチウムイオン電池にちなんで、Liイオンの移動を例として示しています。)

 

 

電位の制御を自動で行う装置をポテンショスタット(定電位測定装置)と呼び、一般的なポテンショスタットでも1mV程度の制御が可能な優れた装置です。

 

ポテンショスタットはイメージ図のよう、作用電極の参照極に対する電位を測定できるだけでなく、
作用電極と対極(補助電極)間で流れる電流も測定できます

 

三電極法が主流になる前の二電極法では、対極と作用極が同じであったため、通電時の電圧降下(オームの法則に従う)による電圧降下(IRドロップ)の数値が大きい状態となっていました。つまり、
実際の通電していない状態の電位差と、測定される電位差のずれが起きくなっていたのです。

 

この電圧降下を低減させるために工夫された測定方法が三電極法であり、これが三電極系での測定が採用されている大きな理由となっています。

 

また、上イメージ図ではすべて同じ電解液中に存在する様子を記載しましたが、参照極のみを別に位置させ、塩橋でつなぎ測定する場合もあります。

 

以下のようなイメージです。

 

 

 

塩橋を入れることで、反応物の拡散により変化する各電極の電位のずれを防ぐことができます。

 

さらに、ガルバノスタットという装置では、ポテンショスタットとは異なり電流を制御した際の作用電極の参照極に対する電位の測定が可能です。

 

(※参照極などで使用するリチウム金属など、リチウムイオン電池の危険物に関することはこちらで解説しています。)

 

 

関連記事

 

容量とは?

 

充放電曲線とは?
オームの法則とは?
電池の短絡(ショート)とは? 
リチウムイオン電池の構成材料と危険物
塩橋の役割と入れる理由

 

 

リチウムイオン電池の評価における三電極法

 

リチウムイオン電池の評価において、「どのようにこの三電極法を使用しているか?」下記に解説します。

 

上述のよう、三電極法では作用極の参照極に対する電位を測定するため、作用極の性能の情報が得られます。

 

そのため、リチウムイオン電池の評価としては、正極や負極を作用極に設置することで、正極、負極単体の性能評価を行う目的で、三電極法を使用します。

 

この際は、対極、参照極ともにLi金属を設置させ、正極、負極単体の容量充放電曲線等を測定し、その後の電池設計(例えば正・負極のバランスの決定等)に役立てます。

 

以下の関連記事中で、代表的な正極活物質であるコバルト酸リチウムや、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムの単体での容量測定結果のイメージを解説していますので、参考にしてみてくださいね。

 

関連記事

容量とは?
充放電曲線とは?
コバルト酸リチウムの反応と特徴
マンガン酸リチウムの反応と特徴
リン酸鉄リチウムの反応と特徴
リチウムイオン電池の構成材料と危険物

 

 

三電極法(3電極法)とは?なぜ三電極系にするのか?【電極の評価方法】 関連ページ

エネルギー変換
化学変化の基礎(エンタルピー、エントロピー、ギブズエネルギー)
反応ギブズエネルギーと標準生成ギブズエネルギー
化学平衡と化学ポテンシャル、活量、平衡定数○
電圧とギブズエネルギーの関係○
化学ポテンシャルと電気化学ポテンシャル、ネルンストの式○
ネルンストの式の導出
【演習問題】ネルンストの式を使用する問題演習をしよう!
電池反応に関する標準電極電位のまとめ(一覧)
標準電極電位とは?電子のエネルギーと電位の関係から解説
標準電極電位の表記例と理論電圧(起電力)の算出【電池の起電力の計算】
標準電極電位と金属の電子状態○
電池内部の電位分布、基準電極に必要なこと○
基準電極の種類
電気二重層、表面電荷と電気二重層モデル
サイクリックボルタンメトリーの原理と測定結果の例
サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法
LSVの原理と測定結果の例
クロノアンぺロメトリ―の原理と測定結果の例
クロノポテンショメトリ―の原理と測定結果の例
電荷移動律速と拡散律速(電極反応のプロセス)○
リチウムイオン電池と等価回路(ランドルス型等価回路)
リチウムイオン電池と交流インピーダンス法【インピーダンスの分離】
【拡散律速時のインピーダンス】ワールブルグインピーダンスとは?限界電流密度とは?【リチウムイオン電池の抵抗成分】
電解質の電気抵抗、電気伝導率
イオンの移動度とモル伝導率 輸率とその計算方法は?
イオン強度とは?イオン強度の計算方法は?
電子授受平衡と交換電流、交換電流密度○
Butler-Volmerの式(過電圧と電流の関係式)○
Tafel式とは?Tafel式の導出とTafelプロット○
【演習】アレニウスの式から活性化エネルギーを求める方法
活性化エネルギー詳細
加速劣化試験と電池部材の耐食性評価
腐食とは?腐食の種類と電位-pH図
めっきとは?めっきの役割と種類
自己触媒めっきと自己触媒
【演習問題】電流効率とは?電流効率の計算方法【リチウムイオン電池部材のめっき】
隙間腐食(すきま腐食)の意味と発生メカニズム
電食・ガルバニック腐食・異種金属腐食
濃淡電池の原理・仕組み 酸素濃淡電池など
浸透探傷試験(レッドチェック)
ファラデーの法則とは?ファラデー電流と非ファラデー電流とは?
ド・ブロイの物質波とハイゼンベルグの不確定性原理
波動関数と電子の存在確率(粒子性と波動性の結び付け)
シュレーディンガー方程式とは?波の式からの導出
波の式を微分しシュレーディンガー方程式を導出
井戸型ポテンシャルの問題とシュレーディンガー方程式の立式と解
オイラーの公式と導出
光と電気化学 基底状態と励起状態 蛍光とりん光 ランベルト-ベールの式
光束・光度・輝度の定義と計算方法【演習問題】
電磁波の分類 波長とエネルギーの関係式 1eVとは?eV・J・Vの変換方法【計算問題】
光と電気化学 励起による酸化還元力の向上
溶解度積と沈殿平衡 導出と計算方法【演習問題】
再配向エネルギーと活性化エネルギー
内圏型と外圏型電子移動の違い
pHメーター(pHセンサー)の原理・仕組みは?pHメーターとネルンストの式
ガスセンサー(固体電解質)の原理とは?ネルンストの式との関係は?
オリゴマーとは?ポリマーとオリゴマーの違いは?数平均分子量と重量平均分子量の求め方【演習問題】
面心立方格子、体心立方格子、ミラー指数とは?【リチウムイオン電池の正極材の結晶構造は】
アタクチックポリマー、イソタクチックポリマー、シンジオタクチックポリマーの違いは?【ポリマーのタクチシチ―】
おすすめの電気化学の参考書
【電流密度】電流密度と電流の関係を計算してみよう【演習問題】
ギブズの相律とは?F=C-P+2とは?【演習問題】
状態関数と経路関数 示量性状態関数と示強性状態関数とは?
定容熱容量(Cv)と定圧熱容量(CP)とは?違いは?
分子間相互作用
理想気体と実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの状態方程式) 排除体積とは?排除体積の計算方法
オクテット則
【緩衝作用】酢酸の緩衝溶液のpHを計算してみよう【酢酸の解離平衡時の平衡定数】
電子軌道 s軌道・p軌道とは?
混合エントロピー 計算と導出方法は?
錯体・キレート 錯体平衡の計算問題を解いてみよう【演習問題】
「速度論的に安定」と「熱力学的に安定」
触媒の仕組みと化学反応
分配平衡と分配係数・分配比 導出と計算方法【演習問題】
塩橋の役割と入れる理由
レナードジョーンズポテンシャル 極小値の導出と計算方法【演習問題】
ルイス酸とルイス塩基の定義 見分け方と違い
膜電位の定義と計算方法
トルートンの規則 トルートンの式
化学におけるクラスターとは
結晶粒界(粒界)の定義と粒界腐食
化学におけるキャラクタリゼーションとは
化学におけるバルクとは?バルク水とは
電気化学における活性・不活性とは?活性電極と不活性電極の違い
1eVは熱エネルギー(温度エネルギー)に換算するとどのくらいの大きさになるのか
物質の相図(状態図)と物質の三態の関係 水の状態図の見方 蒸発・凝縮・融解・凝固・昇華・凝結とは? 三重点と臨界点とは?
プランク定数とエイチ÷2πの定数(エイチバー:ディラック定数)との関係
活量係数とは?活量係数の計算問題をといてみよう【活量と活量係数の関係】
光触媒である二酸化チタンの原理や用途
水素脆性(ぜいせい)、水素脆化の意味と発生の原理は?ベーキング処理とは?
波数と波長の変換(換算)の計算問題を解いてみよう
波長と速度と周波数の変換(換算)方法 計算問題を解いてみよう
波数とエネルギーの変換方法 計算問題を解いてみよう

HOME プロフィール お問い合わせ