サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法

サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法

当サイトでは記事内に広告を含みます


電気化学の測定方法 -サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法-

 

電気化学の測定法として有名な測定方法の一つにサイクリックボルタンメトリー(CV)が挙げられます。

 

このページでは、

 

・サイクリックボルタモグラムの解析

 

について解説しています。

 

サイクリックボルタンメトリーの原理、測定結果の例はこちらで解説しています。

 

 

サイクリックボルタモグラムの解析概要

サイクリックボルタンメトリーを行うことにより得られる測定結果(縦軸反応電流値、横軸電位を取ったもの)のことをサイクリックボルタモグラムと呼びます。

 

サイクリックボルタモグラムの形は、反応電子数、溶媒の種類、酸化還元反応種等々により大きく異なります。

 

しかし、サイクリックボルタモグラムの形は違っても、共通して解析可能な情報があります。
(ただし、こちらのページで解説している内容は可逆系のボルタモグラムです)

 

ここで、解析の前知識として、ある電子授受反応における一連の流れは電子授受反応と拡散反応(物質移動)の直列プロセスになっていることを理解しておきましょう。

 

そして、サイクリックボルタモグラムの解析では、上記の一連のプロセスの中のどのプロセスが律速しているか?(最も遅いか)により、解析できる情報が異なってきます。

 

律速プロセスと解析できる情報の関係は以下の通りです。

 

 

 

ただし、電子授受反応(電荷移動反応)が律速している場合は反応電子数が大きいと算出が複雑になるため算出が容易な一電子反応の系のみを下記で解説しています。

 

上記プロセスの例としてリチウムイオン電池における反応であれば、

 

電子授受反応(電荷移動反応)は正極活物質-電解液界面や負極活物質(黒鉛を使用していれば正確にはSEI)-電解液界面におけるLiイオンの脱挿入反応に当たります。

 

拡散反応(物質輸送反応)であれば、上記界面に至るまでの、電解液内のLiイオンの移動抵抗等に当たります。

 

関連記事

 

サイクリックボルタンメトリ-の原理と測定結果例
電子授受反応と拡散反応(物質移動)とは?
リチウムイオン電池における負極表面のSEIとは?
電解液内のLiイオンの移動抵抗
LSVの原理と測定結果の例
クロノアンぺロメトリ-(CA)の原理と測定結果の例
燃料電池における電極触媒のCV測定
燃料電池(PEFC)における酸素還元活性(ORR活性)とは?

 

 

 

サイクリックボルタモグラムの解析詳細

 

電子授受反応律速(電荷移動反応律速)の場合

 

概要

 

電子授受反応律速、つまり電子授受反応が遅いときとは、リチウムイオン電池の反応を例に挙げた場合、
電解液中のLiイオンの移動が十分速く、各電極-電解液近傍にはLiイオンが十分にあるが、それを消費する反応が遅いとも言えます。

 

これが律速しているということは、この電子授受反応の速度がこの系の全体の反応速度(電流値に寄与)になっています。

 

 

 

解析方法

 

下記の手順で電子授受反応速度を見積もることができます。

 

電子の移動速度が非常に小さい場合、電極-電解液界面の濃度がほぼ一定となります。
電極表面に反応物質がたまっているようなイメージです。

 

このように電子移動速度が非常に小さい場合に、電位の走査速度を速くすると電子移動反応が走査速度に間に合わなくなることで、アノード反応、カソード反応間のピーク幅(⊿Ep)が広がるという特徴があります。

 

そして得られた幅⊿Epを下図の関係を用いて無次元数Qというものに変換します。

 

 

一電子反応の場合は、平衡状態においてアノード反応、カソード反応が釣り合っている時(交換電流が流れている時)の反応速度定数keqを下記の関係から算出することができます。

 

 

 

さらに、この値を用いる事で、交換電流、交換電流密度の値を算出できます。

 

上述のよう一電子反応における反応速度もなかなか複雑であり、実際のところ多くの仮定がある状況下の見積もりですのであくまで参考値として使用することが、良いのではないかと私は考えています。

 

 

 

拡散律速の場合

 

概要

 

拡散律速の解析は、電子移動律速時の解析と比べて比較的簡単です。

 

電子移動が速いため、電極表面の濃度は一定になっていると考えて良く(物質移動で電極-界面に到達した物質はすぐに反応してしまうため)この時のサイクリックボルタモグラムはアノード反応、カソード反応共にピーク位置は変わらずに、ピーク電流の大きさのみが変わります。

 

 

 

解析方法

 

走査速度を変化させ、その際のピーク電流を測定することで、拡散係数を算出することができます。

 

走査速度が速いと表面の濃度勾配が大きい状態をキープするため、電流値は大きくなります。

 

そして、コットレルの式と呼ばれる下記の式から拡散係数Dの算出が行えます。(縦軸にピーク電流値Ipで、横軸に掃引速度のルートであるv1/2を取り、n,A,cが既知の場合傾きよりDの算出が可能です。)

 

 

電子授受反応が律速しているか、拡散反応が律速しているかで、解析方法が大きく異なることを頭に入れておきましょう。

 

関連記事
 

アノード反応、カソード反応とは?
交換電流、交換電流密度とは?
サイクリックボルタンメトリ-の原理と測定結果例
電子授受反応と拡散反応(物質移動)とは?
リチウムイオン電池における負極表面のSEIとは?
電解液内のLiイオンの移動抵抗
LSVの原理と測定結果の例
クロノアンぺロメトリ-(CA)の原理と測定結果の例
燃料電池における電極触媒のCV測定
燃料電池(PEFC)における酸素還元活性(ORR活性)とは?

 

 

サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法 関連ページ

エネルギー変換
化学変化の基礎(エンタルピー、エントロピー、ギブズエネルギー)
反応ギブズエネルギーと標準生成ギブズエネルギー
化学平衡と化学ポテンシャル、活量、平衡定数○
電圧とギブズエネルギーの関係○
化学ポテンシャルと電気化学ポテンシャル、ネルンストの式○
ネルンストの式の導出
【演習問題】ネルンストの式を使用する問題演習をしよう!
電池反応に関する標準電極電位のまとめ(一覧)
標準電極電位とは?電子のエネルギーと電位の関係から解説
標準電極電位の表記例と理論電圧(起電力)の算出【電池の起電力の計算】
標準電極電位と金属の電子状態○
電池内部の電位分布、基準電極に必要なこと○
基準電極の種類
電気二重層、表面電荷と電気二重層モデル
電気化学の測定方法 -三電極法-
サイクリックボルタンメトリーの原理と測定結果の例
LSVの原理と測定結果の例
クロノアンぺロメトリ―の原理と測定結果の例
クロノポテンショメトリ―の原理と測定結果の例
電荷移動律速と拡散律速(電極反応のプロセス)○
リチウムイオン電池と等価回路(ランドルス型等価回路)
リチウムイオン電池と交流インピーダンス法【インピーダンスの分離】
【拡散律速時のインピーダンス】ワールブルグインピーダンスとは?限界電流密度とは?【リチウムイオン電池の抵抗成分】
電解質の電気抵抗、電気伝導率
イオンの移動度とモル伝導率 輸率とその計算方法は?
イオン強度とは?イオン強度の計算方法は?
電子授受平衡と交換電流、交換電流密度○
Butler-Volmerの式(過電圧と電流の関係式)○
Tafel式とは?Tafel式の導出とTafelプロット○
【演習】アレニウスの式から活性化エネルギーを求める方法
活性化エネルギー詳細
加速劣化試験と電池部材の耐食性評価
腐食とは?腐食の種類と電位-pH図
めっきとは?めっきの役割と種類
自己触媒めっきと自己触媒
【演習問題】電流効率とは?電流効率の計算方法【リチウムイオン電池部材のめっき】
隙間腐食(すきま腐食)の意味と発生メカニズム
電食・ガルバニック腐食・異種金属腐食
濃淡電池の原理・仕組み 酸素濃淡電池など
浸透探傷試験(レッドチェック)
ファラデーの法則とは?ファラデー電流と非ファラデー電流とは?
ド・ブロイの物質波とハイゼンベルグの不確定性原理
波動関数と電子の存在確率(粒子性と波動性の結び付け)
シュレーディンガー方程式とは?波の式からの導出
波の式を微分しシュレーディンガー方程式を導出
井戸型ポテンシャルの問題とシュレーディンガー方程式の立式と解
オイラーの公式と導出
光と電気化学 基底状態と励起状態 蛍光とりん光 ランベルト-ベールの式
光束・光度・輝度の定義と計算方法【演習問題】
電磁波の分類 波長とエネルギーの関係式 1eVとは?eV・J・Vの変換方法【計算問題】
光と電気化学 励起による酸化還元力の向上
溶解度積と沈殿平衡 導出と計算方法【演習問題】
再配向エネルギーと活性化エネルギー
内圏型と外圏型電子移動の違い
pHメーター(pHセンサー)の原理・仕組みは?pHメーターとネルンストの式
ガスセンサー(固体電解質)の原理とは?ネルンストの式との関係は?
オリゴマーとは?ポリマーとオリゴマーの違いは?数平均分子量と重量平均分子量の求め方【演習問題】
面心立方格子、体心立方格子、ミラー指数とは?【リチウムイオン電池の正極材の結晶構造は】
アタクチックポリマー、イソタクチックポリマー、シンジオタクチックポリマーの違いは?【ポリマーのタクチシチ―】
おすすめの電気化学の参考書
【電流密度】電流密度と電流の関係を計算してみよう【演習問題】
ギブズの相律とは?F=C-P+2とは?【演習問題】
状態関数と経路関数 示量性状態関数と示強性状態関数とは?
定容熱容量(Cv)と定圧熱容量(CP)とは?違いは?
分子間相互作用
理想気体と実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの状態方程式) 排除体積とは?排除体積の計算方法
オクテット則
【緩衝作用】酢酸の緩衝溶液のpHを計算してみよう【酢酸の解離平衡時の平衡定数】
電子軌道 s軌道・p軌道とは?
混合エントロピー 計算と導出方法は?
錯体・キレート 錯体平衡の計算問題を解いてみよう【演習問題】
「速度論的に安定」と「熱力学的に安定」
触媒の仕組みと化学反応
分配平衡と分配係数・分配比 導出と計算方法【演習問題】
塩橋の役割と入れる理由
レナードジョーンズポテンシャル 極小値の導出と計算方法【演習問題】
ルイス酸とルイス塩基の定義 見分け方と違い
膜電位の定義と計算方法
トルートンの規則 トルートンの式
化学におけるクラスターとは
結晶粒界(粒界)の定義と粒界腐食
化学におけるキャラクタリゼーションとは
化学におけるバルクとは?バルク水とは
電気化学における活性・不活性とは?活性電極と不活性電極の違い
1eVは熱エネルギー(温度エネルギー)に換算するとどのくらいの大きさになるのか
物質の相図(状態図)と物質の三態の関係 水の状態図の見方 蒸発・凝縮・融解・凝固・昇華・凝結とは? 三重点と臨界点とは?
プランク定数とエイチ÷2πの定数(エイチバー:ディラック定数)との関係
活量係数とは?活量係数の計算問題をといてみよう【活量と活量係数の関係】
光触媒である二酸化チタンの原理や用途
水素脆性(ぜいせい)、水素脆化の意味と発生の原理は?ベーキング処理とは?
波数と波長の変換(換算)の計算問題を解いてみよう
波長と速度と周波数の変換(換算)方法 計算問題を解いてみよう
波数とエネルギーの変換方法 計算問題を解いてみよう

HOME プロフィール お問い合わせ