ルシャトリエの法則・原理とは?
科学的な現象を理解するためには、科学に関する基礎知識を身につけておくことがとても重要です。
例えば、ある物質の「原子量・分子量・式量」や化学平衡などさまざま用語を理解しておくといいです。
中でも化学平衡に関する重要な法則として、「ルシャトリエの法則」とよばれるものがあります。
ここでは、ルシャトリエの法則(原理)に関する内容について解説していきます。
・ルシャトリエの原理・ルシャトリエの法則
・温度を変化させた場合のルシャトリエの法則
・圧力を変化させた場合のルシャトリエの法則
・触媒を添加した場合
・反応に関与する物質を添加・除去したとき
反応に関与しない物質を添加したとき
というテーマで解説していきます。
ルシャトリエの原理・ルシャトリエの法則
ルシャトリエの法則とは、ある化学反応において平衡状態となっているとき、外部環境などの条件を変えると、その変化を抑制する方向に平衡が移動する現象のことを指します。別名平衡移動の法則とも呼ばれています。
具体的な化学反応をみて、ルシャトリエの原理について理解を深めるといいです。
高校化学でよくでるルシャトリエの問題としては、ハーバーボッシュ法(アンモニアの直接的な製造法)としても有名なN2+3H2→2NH3 + 92kJ 反応があります。
そして、変化させる外部条件や方法には「温度」「圧力」「触媒の添加」「反応関与物質の添加・除去」「反応に関与しない物質の添加」に分けることができます。
高校化学の分野での出題はほぼほぼこれらの中からの出題のみです。
以下でひとつずつ確認していきます。
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温度を変化させた場合のルシャトリエの法則
温度を上げたり、下げたりしたときに着目する項目としては、反応における反応熱(専門用語では反応エンタルピーの逆符号がついたもの)です。特に符号をチェックしておきましょう。
例えば、温度を上げたとします。すると、上の例で左から右へ移るのが発熱反応であるため、逆方向に平衡が移動します。
つまり、左に平衡が移動するといえます。
逆に温度を下げたとします。すると、熱を上げる側に平衡が移るために、平衡は右に移動するといえます。
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圧力を変化させた場合のルシャトリエの法則
次に圧力条件を変更するときを考えてみましょう。圧力の変化を考える際に着目する項目としては、左辺と右辺の各々の物質量(モル数)です。
具体的に上式では、左辺がアンモニアの1分子と水素の3分子で計4分子分存在すると考えます。
一方で、右辺では、アンモニアの2分子のみとなります。
よって、左辺の方が物質がたくさんあるため、圧力が高いイメージをするといいです。(気体分子運動を考えるとわかりやすいです)
このとき、圧力を上げたとします。すると、上の例では圧力を下げる方向、つまり、分子数が低下する方向に平衡が移動するため、右に平衡が移動します。
逆に、圧力を低下させたとすると、分子数が多くなる方向に平衡が移動します。上の例では、左に平衡が移動するのです。
一つ一つ丁寧に現象を考えることが、ルシャトリエの式を攻略するポイントといえます。
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触媒を添加した場合
実は触媒を添加して変化するのは活性化エネルギーのみであり、平衡状態に影響は与えません。
反応の速度のみが上昇するのです。
触媒と化学反応の関係は以下のようなイメージです。
反応熱も変化していないことに気を付けましょう。
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反応に関与する物質を添加・除去したとき
それでは、反応に関与する物質を添加するとどのように化学平衡は移動するのでしょうか。
例えば、水素を添加したときを考えましょう。すると、水素の増加を減らす方向に平衡が移動します。つまり、右側に平衡が移動するのです。
逆に、右辺に存在するアンモニア分子を加えたとすると、今度はアンモニアを減らす方向に平衡が移動します。つまり左へ平衡が移動すrうのです。
逆に反応に関わる物質を除去するケースを考えましょう。たとえば、水素を取り除いたとすると、今度は水素が増える方向に平衡が移動するのです。
結果として平衡は左に移ります。
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反応に関与しない物質を添加したとき
最後に反応に関与しない物質を系に加えたとしましょう。このときはどのような考え方をするといいのでしょうか。
実は、圧力一定のときと体積一定のときで区別して考える必要があります。
圧力一定の問題
まずは、圧力一定で不活性物質(アルゴンや窒素など)を添加したとします。
すると体積は変化していき、不活性ガスの割合が増え、反応関与物質の割合(分圧)が減ります。
そのため、反応関与物質の物質量の割合を増やす方向である、左側に平衡が移動します。基本的に上で述べた圧力の問題と同様に考えればいいことがわかります。
体積一定の問題
同様に体積一定では、分圧が変化しないため、何も起こりません。
何が起こるかをきちんと考え、ルシャトリエの法則をマスターしていきましょう。
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