溶解度積と沈殿平衡 導出と計算方法【演習問題】

当サイトでは記事内に広告を含みます


溶解度積と沈殿平衡 導出と計算方法【演習問題】

 

このページでは

 

・溶解度積とは? 沈殿平衡との関係

 

・溶解度積の計算方法【演習問題】

 

 

について解説しています。

 

(※このページの前知識として重要な標準電極電位についてはこちらで解説しています

 

 

 

溶解度積とは? 沈殿平衡との関係

高校化学でも習う「溶解度積」ですが、実は電気化学とも関わりがあります。
 
溶解度積とは、陽イオンと陰イオンから構成される難溶性の塩において、ある溶液中、ある温度で、沈殿が起こらずに溶ける限界の時(沈殿平衡)の陽イオンと陰イオンの積のことを指します。

 

溶解度積は基本的に記号Kspで表します。

 

たとえば代表的な例として、陽イオンが銀イオン、陰イオンがハロゲンから構成される塩、AgClなどが挙げられます。

 

このAgClの溶解度積は溶媒が水、温度が25℃の場合は1.77×10-10M程度と非常に小さい値です。

 

非常に小さい値であるために実際には測定できないものもあり、そのような場合も含めて標準電極電位を用いて算出することが一般的です。

 

次に溶解度積の導出方法について解説します。

 

 

関連記事
 

標準電極電位とは?
反応ギブズエネルギーとの関係式⊿G=-RTlnKsp
活量とは?
ネルンストの式とは?化学ポテンシャルと電気化学ポテンシャルの違い
ネルンストの式の導出方法

 

 

 

溶解度積の求め方 電気化学と溶解度積

難溶性の塩AgClの溶解度積を考えていきましょう。

 

溶解度積はKsp=[Ag+][Cl-]と表すことができます。

 

平衡時はAgCl ⇔ Ag+ + Cl- という反応式が成り立っています。

 

そして、以下の手順で算出していきます。

 

 

 

①二つの電気化学反応に分解する

 
ここでこの式を二つの電気化学反応式に分解し、各々の標準電極電位について考えていきます。

 

① AgCl + e- →Ag+ + Cl-  Eo=+0.2223 V vs SHE

 

②  Ag → Ag+ + e-  Eo=+0.799 V vs SHE

 

という式が、電気化学平衡時に成り立ちます。

 

電子の受け取りと放出の関係から、②の式から①の式の方向に電子が動くことで反応むことがわかります。
 
しかし、標準電極電位に着目すると①の方が低いため(電子のエネルギーが高い)、自発的に起こる反応は逆であることがわかります(つまり全反応式の反応ギブズエネルギーが正となり、平衡がAgcl側に偏っているために溶けにくいということになります。)

 

つまり反応を進めるためには、外部から標準電極電位の差分のエネルギーを加える必要があります。

 

 

 

②標準電極電位の差を比べ、エネルギーに変換する。


そのエネルギーの差分は、標準電極電位の差分に着目し、0.799-0.2223=0.5767 V分のエネルギーに当たります。

 

エネルギーと電圧を結びつける場合はまずeVで考えると、電子1つ分あたり0.5767 eVのエネルギーが必要で、これを1molあたりに変換すると約55.6 kJ のエネルギーが必要であることがわかります。

 

(※1eV=96.5kJを使用)

 

 

 

平衡定数と反応ギブズエネルギーの関係式から溶解度積を算出する。

 

反応ギブズエネルギーと平衡定数との関係式⊿G=-RTlnKspから、溶解度積Kspを算出する。

 

ここで、Kspは[Ag+][Cl-]/[AgCl]ですが、固体のAgClの活量は1のため無視でき、実質[Ag+][Cl-]で表します。

 

実際に25℃での溶解度積を、値を入れて解いてみましょう。

 

 

55600 J = -8.314J/(mol・K)×298K×lnKsp

 

⇔lnKsp=-22.44 ⇔ Ksp=1.80×10-10 Mと測定値とほぼ一致しています。

 

 

また、上のような計算問題ではネルンストの式をベースに算出しているため、ネルンストの式やそのネルンストの式の導出方法について理解しておくと良いでしょう。

 

関連記事
 

 標準電極電位とは?
反応ギブズエネルギーとの関係式⊿G=-RTlnKsp
活量とは?
ネルンストの式とは?化学ポテンシャルと電気化学ポテンシャルの違い
ネルンストの式の導出方法

 

溶解度積と沈殿平衡 導出と計算方法【演習問題】 関連ページ

エネルギー変換
化学変化の基礎(エンタルピー、エントロピー、ギブズエネルギー)
反応ギブズエネルギーと標準生成ギブズエネルギー
化学平衡と化学ポテンシャル、活量、平衡定数○
電圧とギブズエネルギーの関係○
化学ポテンシャルと電気化学ポテンシャル、ネルンストの式○
ネルンストの式の導出
【演習問題】ネルンストの式を使用する問題演習をしよう!
電池反応に関する標準電極電位のまとめ(一覧)
標準電極電位とは?電子のエネルギーと電位の関係から解説
標準電極電位の表記例と理論電圧(起電力)の算出【電池の起電力の計算】
標準電極電位と金属の電子状態○
電池内部の電位分布、基準電極に必要なこと○
基準電極の種類
電気二重層、表面電荷と電気二重層モデル
電気化学の測定方法 -三電極法-
サイクリックボルタンメトリーの原理と測定結果の例
サイクリックボルタンメトリーにおける解析方法
LSVの原理と測定結果の例
クロノアンぺロメトリ―の原理と測定結果の例
クロノポテンショメトリ―の原理と測定結果の例
電荷移動律速と拡散律速(電極反応のプロセス)○
リチウムイオン電池と等価回路(ランドルス型等価回路)
リチウムイオン電池と交流インピーダンス法【インピーダンスの分離】
【拡散律速時のインピーダンス】ワールブルグインピーダンスとは?限界電流密度とは?【リチウムイオン電池の抵抗成分】
電解質の電気抵抗、電気伝導率
イオンの移動度とモル伝導率 輸率とその計算方法は?
イオン強度とは?イオン強度の計算方法は?
電子授受平衡と交換電流、交換電流密度○
Butler-Volmerの式(過電圧と電流の関係式)○
Tafel式とは?Tafel式の導出とTafelプロット○
【演習】アレニウスの式から活性化エネルギーを求める方法
活性化エネルギー詳細
加速劣化試験と電池部材の耐食性評価
腐食とは?腐食の種類と電位-pH図
めっきとは?めっきの役割と種類
自己触媒めっきと自己触媒
【演習問題】電流効率とは?電流効率の計算方法【リチウムイオン電池部材のめっき】
隙間腐食(すきま腐食)の意味と発生メカニズム
電食・ガルバニック腐食・異種金属腐食
濃淡電池の原理・仕組み 酸素濃淡電池など
浸透探傷試験(レッドチェック)
ファラデーの法則とは?ファラデー電流と非ファラデー電流とは?
ド・ブロイの物質波とハイゼンベルグの不確定性原理
波動関数と電子の存在確率(粒子性と波動性の結び付け)
シュレーディンガー方程式とは?波の式からの導出
波の式を微分しシュレーディンガー方程式を導出
井戸型ポテンシャルの問題とシュレーディンガー方程式の立式と解
オイラーの公式と導出
光と電気化学 基底状態と励起状態 蛍光とりん光 ランベルト-ベールの式
光束・光度・輝度の定義と計算方法【演習問題】
電磁波の分類 波長とエネルギーの関係式 1eVとは?eV・J・Vの変換方法【計算問題】
光と電気化学 励起による酸化還元力の向上
再配向エネルギーと活性化エネルギー
内圏型と外圏型電子移動の違い
pHメーター(pHセンサー)の原理・仕組みは?pHメーターとネルンストの式
ガスセンサー(固体電解質)の原理とは?ネルンストの式との関係は?
オリゴマーとは?ポリマーとオリゴマーの違いは?数平均分子量と重量平均分子量の求め方【演習問題】
面心立方格子、体心立方格子、ミラー指数とは?【リチウムイオン電池の正極材の結晶構造は】
アタクチックポリマー、イソタクチックポリマー、シンジオタクチックポリマーの違いは?【ポリマーのタクチシチ―】
おすすめの電気化学の参考書
【電流密度】電流密度と電流の関係を計算してみよう【演習問題】
ギブズの相律とは?F=C-P+2とは?【演習問題】
状態関数と経路関数 示量性状態関数と示強性状態関数とは?
定容熱容量(Cv)と定圧熱容量(CP)とは?違いは?
分子間相互作用
理想気体と実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの状態方程式) 排除体積とは?排除体積の計算方法
オクテット則
【緩衝作用】酢酸の緩衝溶液のpHを計算してみよう【酢酸の解離平衡時の平衡定数】
電子軌道 s軌道・p軌道とは?
混合エントロピー 計算と導出方法は?
錯体・キレート 錯体平衡の計算問題を解いてみよう【演習問題】
「速度論的に安定」と「熱力学的に安定」
触媒の仕組みと化学反応
分配平衡と分配係数・分配比 導出と計算方法【演習問題】
塩橋の役割と入れる理由
レナードジョーンズポテンシャル 極小値の導出と計算方法【演習問題】
ルイス酸とルイス塩基の定義 見分け方と違い
膜電位の定義と計算方法
トルートンの規則 トルートンの式
化学におけるクラスターとは
結晶粒界(粒界)の定義と粒界腐食
化学におけるキャラクタリゼーションとは
化学におけるバルクとは?バルク水とは
電気化学における活性・不活性とは?活性電極と不活性電極の違い
1eVは熱エネルギー(温度エネルギー)に換算するとどのくらいの大きさになるのか
物質の相図(状態図)と物質の三態の関係 水の状態図の見方 蒸発・凝縮・融解・凝固・昇華・凝結とは? 三重点と臨界点とは?
プランク定数とエイチ÷2πの定数(エイチバー:ディラック定数)との関係
活量係数とは?活量係数の計算問題をといてみよう【活量と活量係数の関係】
光触媒である二酸化チタンの原理や用途
水素脆性(ぜいせい)、水素脆化の意味と発生の原理は?ベーキング処理とは?
波数と波長の変換(換算)の計算問題を解いてみよう
波長と速度と周波数の変換(換算)方法 計算問題を解いてみよう
波数とエネルギーの変換方法 計算問題を解いてみよう

HOME プロフィール お問い合わせ