オクテット則
電気化学における反応を理解するうえで、物質間での電子移動をきちんと理解することは重要です。
物質の電子移動を考えるには、そもそも物質が「どのような電子状態であるか」「どのような状態で安定となりやすいのか」ということを把握するといいです。
ここで、物質の電子配置の安定性に関する用語である「オクテット則」について解説していきます。
・オクテット則
・オクテット則と共鳴
・オクテット則を満たさないものの例
というテーマで解説していきます。
オクテット則
物質の電子配置を考える上で基本的な法則として、オクテット則とよばれる法則があります。
オクテット則とは、「最外殻の電子がすべて満たされるとき、つまり8個の電子で満たされる状態が安定であり、これを満たす方向に反応がおこる」ということを表した法則といえます。
具体的な例を用いて、解説していきます。
まず、原子は以下のように陽子と中性子から構成される原子核とその周りに存在する電子から構成されます(具体的には電子雲とよばれる電子の存在確率との関係があります)。
原子はこのような構造をとりますが、物質によってその電子数が異なります。
例えば、リチウム原子の電子配置は以下の通りです。ここで、このときK殻のみは電子が2つまでしか入らないため、2つのときが最外殻が満杯な状態といえます。つまりオクテット則が成り立ちます。
ここで、Liイオンとなり、安定な状態となったときは電子が一つ外部にでていき、Li+となります。
同様に、酸素原子でも考えてみましょう。
O2原子の電子配置は以下の通りです。ここで、このときL殻以降(L,M,N殻)では電子は8つまで入ります。つまり、8つのときが最外殻が満杯な状態といえます。つまりオクテット則が成り立ちます。
ここで、酸素イオンとなり、安定な状態となったときは電子が外部から2つ入りO2-となります。
酸素イオンのように、電子が満杯となる殻の最大数が8であるものがほとんどです。上の例に挙げたLiなどが例外といえます。オクトとはギリシャ語で8を表すために、最外殻に電子が8つ入る法則のことをオクテット則と呼んでいます。
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オクテット則と共鳴
まずは、分子の共鳴構造について解説していきます。
電子配置における共鳴構造とは、ある物質の電子式を書こくき、構成する原子は同じだが「結合や電子の位置が変化しているもの」のことを指します。といえます。
以下のような電子配置の組み合わせが電子式における共鳴構造です。例として硝酸イオン(NO3-)の共鳴構造の式を示します。
共鳴構造の書き方として、「原子の位置は動かしてはいけない」という規則があります。さらに、共鳴構造をにいける原子配置は、基本的に同じ平面上にあります。
共鳴によって、電子配置が変化する際にはσ結合(シグマ結合)が切れることはありません。σ結合の切断は物質がが二つに分かれ、異なる物質になるためです。
つまり、共鳴構造で変化する部分としては、二重結合などを構成しているπ結合(厳密には電子対が移動)などです。
そして、この共鳴構造も基本的にオクテット則を満たしている状態の方がより安定となります。ただ、オクテット則は経験則であるため、共鳴構造においても満たさないものもあります。
(※科学的な解析には理論則と経験則では違いがみられることが多くあります。
有名な例としては、理想気体と実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの状態方程式)であったり、アレニウスの式と10℃2倍則であったり、ラングミュアとフロイントリッヒの吸着等温式の関係などです。
また、共鳴構造式を多く書ける構造であるほど、安定度が高い構造といえます。これは電子が分子構造全体に広がるように配置する(非局在化)ためです。
物質が凝集しているよりも、まばらに電子があった方が構造のバランスがとれることがイメージできるでしょう。
このように、電子構造とオクテット則には関係があるのです。
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オクテット則を満たさないものの例
ただ、先にも述べたようにオクテット則は経験則であるために、満たさないものも存在します。
例えば、オクテット則をみたさないものの例としては、一酸化窒素(NO)などがあります。以下のような構造です。
※※
周囲の電子の数を考えればわかりますが、そもそも電子数がオクテット則を満たすためには足りていません。電子数が不足している状態では、オクテット則だけでなく、取れる構造の中で最も安定になる状態をとります。
先にも述べたような、Liイオンを始めとした各種物質のすべてにいえることです。
他にも元素であったら、主に典型元素ではオクテット則が適用できますが、遷移金属などには基本的に適用されません。(例えば、当サイトのメインテーマであるリチウムイオン電池の活物質であるコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどに含まれる、「コバルト」「マンガン」「鉄」などが遷移金属にあたります。
また、基本的にオクテット則が成立するものは、第2周期までの元素であり、第3周期を超えるとあまりあてはまらないことが多いです。
オクテット則にも例外がこのように存在する理由としては、s軌道、p軌道に加えて、d軌道が使用できるようになるためです。d軌道が使用できるようになると、電子状態のバリエーションが増えると、オクテット則でなくても安定な構造などが出てくるといえます。
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